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25話 真夜中の名残惜しさと、深まる夜の余韻

作者: みみっく
last update 最終更新日: 2026-03-05 20:38:15

 ソフィアは、ユウが自分を「一人の女子」として意識していることに薄々気づきながらも、それを嫌がるどころか、誇らしげに胸をときめかせていた。自分だけに見せる彼女の素顔。真夜中の静寂が、二人の距離をじりじりと、けれど確実にかき消していく。

湿った髪と、思わず零れた本音の行方

「えっと……こういう姿は、前回見ていましたよね……寝顔も見られてしまいましたし……」

 ソフィアは膝を抱えるようにして、わずかに視線を伏せた。言い終えると、彼女はおずおずと顔を上げ、潤んだ瞳でじっとユウを見つめてきた。湯上がりで微かに湿り気を帯びた金髪が、さらりと頬に張り付いている。学校での「女神」の神々しさとは違う、石鹸の香りを纏った一人の少女としての生々しい美しさ。そんな姿をこんな至近距離で、それも深夜の密室で眺めているのだ。意識するなという方が、土台無理な話だった。

「あの時は、そんなことを考えている余裕もなかったしな」

 ユウは照れ隠しに、ぶっきらぼうに言葉を返した。実際、あの夜は熱を出して苦しむ彼女を助けることで頭がいっぱいだった。だが、今の言葉は裏を返せば「今は余裕があって、そんなことを考えている」と言っているようなもので。

「そんなこと……ですか? ……いえ、なんでも……ない……です。夜月くんの……えっち。エッチです……うぅぅ……ぅぅ……」

 ソフィアはユウの言葉の裏側に気づいたのか、耳の先まで一気に朱に染め上げた。彼女は慌てて近くにあったクッションを引き寄せると、逃げ込むように顔を埋め、小さくなって唸り声を漏らした。クッションに遮られてこもったその声は、甘く、どこか楽しげで、それでいてひどく恥ずかしそうで。

(……反則だろ、それ)

 普段の彼女からは想像もつかない、あまりにも子供っぽくて愛らしい仕草。クッションから覗く彼女の耳が、羞恥でぴくぴくと震えている。ユウは、どうにかして理性を繋ぎ止めようと、温かくなった紅茶を喉に流し込んだ。だが、静まり返った部屋の中で、クッションに顔を埋めたままの彼女が発する、柔らかで、けれど熱烈な「女の子」の気配を無視することなんて、到底できそうになかった。

真夜中の名残惜しさと、深まる夜の余韻

「だ、だよな……ご、ごめんな。つい、誘われたのが嬉しくて……夜中に一人暮らしの女の子の家に上がり込んじゃったけど……断るべきだったわ」

 ユウは慌てて立ち上がると、居たたまれなさを隠すように頭を掻いた。クッションに顔を埋めて悶える彼女の姿は、ユウの理性を揺さぶるには十分すぎるほど刺激が強すぎた。一刻も早くこの熱を帯びた空間から脱しなければ、自分でも何を言い出すか分からなかった。

「へ? ……あ、違いますよ。わたしも、つい……恥ずかしくて、変なことを言っちゃいましたけれど。イヤとか、怖いとかは思っていませんし。お気になさらず……」

 ソフィアはクッションから顔を上げ、焦ったように手を振った。その顔はまだリンゴのように赤く、潤んだ瞳がユウを引き止めるように揺れている。彼女にとっても、ユウを拒絶する意図など毛頭なかったのだろう。ただ、初めて経験する「異性への羞恥心」をどう表現していいか分からず、溢れ出した言葉がそれだっただけなのだ。

「いや、明日も学校だしさ。星野さんの好意に甘えて長居をしちゃ悪いしな……ごちそうさま。紅茶、美味しかったし、楽しかった。また、メッセージでやり取りしような」

 ユウは努めて穏やかな声でそう告げた。彼女の家で過ごす時間は、これまでにないほど心が安らぎ、それでいて激しく揺さぶられる特別なものだった。名残惜しさはユウの中にも確かにあった。けれど、彼女の「女神」としての日常を守るためには、ここで引くのが正解だと言い聞かせる。

 ソフィアは少しだけ寂しそうに眉を下げたが、最後には小さく頷き、ユウを玄関まで見送るために立ち上がった。

「はい……。こちらこそ、ありがとうございました。……牛乳、大切に飲みますね」

 ドアを閉める直前、彼女はパジャマの裾をぎゅっと握りしめながら、夜風に揺れる金髪の間から、この上なく柔らかな微笑みをユウに投げてよこした。その表情があまりにも反則で、ユウは自分の部屋へ戻る間中、彼女から贈られた「またね」の意味を反芻し、静まり返った廊下で深呼吸を繰り返すしかなかった。

親友の助言と、無自覚な幸福への羨望

 翌日の昼休み、ユウは学食の喧騒の中で、向かいに座るアキラにそれとなく切り出した。核心部分は伏せつつ、昨夜からずっと頭を悩ませていた問題を相談するためだ。

「……友達の家に夕飯を誘われたんだが……何か持っていった方が良いよな?」

 ユウの言葉に、アキラは箸を止めて面白そうに目を細めた。

「ん? 別に気にすることないんじゃないのか。夕食を誘うほどの友達だろ? なにかのお礼とか、頼みごとがあるとかじゃないの? そこに、気を使われてお土産を買ってきてもらったら、気を遣うだろ。まあ、状況や関係が分からないから、何とも言えないけどなー」

 アキラは適当に答えながら、ユウの様子を観察するように首を傾げる。

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